自律神経とは
人の神経はまず、中枢系と末梢系とに大別できます。中枢系は脳や脊髄、末梢系は体性神経と自律神経に分かれます。体性神経は運動神経と知覚神経に分かれ、自律神経は交感神経と副交感神経に分かれています。体性神経は自分の意思によって身体を動かしたり、外からの情報を取り入れたりする神経です。もう一つの自律神経は、自分の意思に関係なく各器官を必要に応じて働かせる神経です。体性神経の働きは、自分の感覚として感知できますが、自律神経は普段自分の意思にのぼらない所で働いている神経なので、意識される事はありません。
この自律神経は先にも述べたように、二種類の神経「交感神経」「副交感神経」とがあります。交感神経は主に緊張・活動型の神経で、副交感神経は休息・体力回復型の神経となります。このように、二つの神経はお互いに相反するような作用があります。
また自律神経は、感情の変化にも呼応して働きます。例えば驚きや怒り、恐怖などを感じると、交感神経の働きが強くなります。逆に副交感神経は、リラックスした時や身体を回復させる時に働きが高まります。
自律神経の調整機能
自律神経の主な機能
1,体温調節
2,血液循環の調節
3,消化機能の調整
4,ストレス因子に対する対応等
また、精神と身体の架け橋にもなっています。
○恐怖・驚き・怒りを感じた交感神経が興奮
○のんびり休んでリラックス副交感神経が優位
○長時間の精神的ストレス交感神経・副交感神経の両方が興奮
○失望・落ち込み・憂うつ交感神経・副交感神経の両方が低下
※その他に自律神経の働きは、ホルモンの分泌や身体の免疫機能にも影響しています。
自律神経は、その人の意思とは関係なく、身体の内外の環境の変化に応じて各器官に働き掛けています。ただ、これらの作用は、自律神経が独自に作用しているのではなく、脳によってコントロールされています。脳は機能と働きから、大脳皮質、大脳辺縁系、大脳基底核を含む大脳と、視床と視床下部がある間脳、小脳、脳幹に分かれています。このうち大脳皮質は人間の高度な精神活動を司る部分で、考えたり理性をコントロールしてます。その内側にある大脳辺縁系は食欲、性欲、睡眠欲などの動物の本能的な欲求や喜怒哀楽の情動を司る所です。そして、自律神経系、ホルモン系の中枢となっているのが視床下部で、大脳辺縁系の影響を強く受けています。
例えば、外部の刺激である情動が生じると、大脳辺縁系は視床下部に情報を流し、この中枢からどちらかの自律神経に指令が発せられて、各器官を適切に反応させるようになっています。このように視床下部は欲求や感情を司る大脳辺縁系の影響が強い為、その影響は自律神経にも及びます。
しかし、人間の場合は常に欲求や感情のままに行動するわけではありません。大脳皮質の理性の働きによってこれらの欲求や感情が抑えられているからです。ただ、上記のような欲求や感情の制御が極端に働くと、大脳皮質と大脳辺縁系、さらに視床下部とのコミュニケーションがうまくいかず、段々と自律神経の正常な調整機能に影響を及ぼしてきます。
自律神経の失調による症状
自律神経失調の症状は大きく分けて2つあります。
1.体の症状
2.心の症状
1.体の症状
頭 | 頭痛・偏頭痛・頭重感 |
---|---|
目 | 疲れ目・ドライアイ・涙目・眩しさ・まぶたの痙攣 |
耳 | 耳鳴り・耳の閉塞感 |
喉 | 異物感・イガイガ感・圧迫感 |
口 | 口の渇き・味覚障害・唾液分泌異常 |
心臓 | 不整脈・動悸・胸の圧迫感 |
血管・循環器 | 立ちくらみ・のぼせ・目まい・冷え・高血圧低血圧・ほてり・しびれ・大量の汗 |
呼吸器 | 息苦しさ・呼吸のしづらさ |
消化器 | 慢性胃炎・神経性胃炎・過敏性腸症候群・お腹の張り・便秘・下痢・食欲低下・過食・食道のつかえ感・吐き気 |
皮膚 | 皮膚の乾燥・痒み・多汗・汗が出ない・冷や汗 |
泌尿器 | 頻尿・尿が出にくい・残尿感 |
生殖器 | 生理不順・インポテンツ・外陰部の痒み・不感症・不妊症 |
筋肉・関節 | 肩こり・背部のこり・腰痛・筋肉の緊張、痛み・手足の痛みやしびれ |
全身 | 疲れやすい・倦怠感・疲労感・不眠・大量の汗をかく・震え・乗り物酔い・眠りが浅い・寝つきが悪い・朝なかなか起きられない |
2.心の症状
・感情的になりやすい
・不安感
・ネガティブ思考
・無気力
・集中力の低下
・過度の緊張
自律神経のバランスは「陰陽」のバランス
交感神経 | 活動 | 陽 |
---|---|---|
副交感神経 | リラックス | 陰 |
※自律神経の交感神経と副交感神経は基本的には拮抗するように働いています
東洋医学ではこの陰陽のバランスを取っていくのが特徴の一つ。過度にどちらかに偏らず
1.お互いのバランスが取れている状態を良しとする
2.お互い、バランス良く機能している状態を良しとする
外界の変化や感情の変化によって、どちらかの自律神経が強く作用することは、自分の状態を一定に保とうとしての反応なので一時的なバランスの偏りは問題ありません。しかし、これらの反応が過度になり過ぎたり長期間に及ぶと、交感神経と副交感神経のバランスが崩れたままになったり、両方が常に働き過ぎたり、またその逆でどちらも働かなさすぎる状態になってしまいます。
このように本来の働きにそぐわない状態を鍼灸治療で整えていきます。
自律神経体力を増加させる
自律神経の場合、交感神経、副交感神経のバランスが大切だと述べてきました。
しかし、それぞれのバランスが取れているだけでは足りません。バランスが取れているだけではなく、それぞれの神経がしっかりと適切に反応を起こしてこなくてはいけません。これが出来ないと、身体の外の変化や情動による体内の変化についていけず、様々な症状が出やすくなってしまいます。これらの自律神経の対応力が自律神経体力です。
自律神経体力がないとどうなるか?
同じストレス状態にあっても人によって大丈夫な人と、そうでない人がいるのは自律神経の対応力の差によるものです。
例えば急に寒くなった時を例とすると、対応力のある人は、代謝を上げて体内での熱生産を増加させたり、末梢血管を収縮させ、体温が外に逃げるのを防いだりすることによって体温を維持します。逆に対応力がないと、熱の生産も上がらず血管の反応も鈍い為、体温が下がりやすくなってしまいます。体温が低いままだと、免疫力も落ちて風邪のひきやすさや、他の病気にかかるリスクが上がります。
長期間のストレス状態にさらされていたり、落ち込みや憂うつ状態にあると、自律神経全体の機能が低下してしまいやすくなります。交感神経・副交感神経のバランスだけではなく、自律神経体力を増加させ、多少のストレスや環境の変化にも耐えられるようにしてあげるのも大切です。
鍼灸治療では、自律神経の陰陽バランスを整えるだけでなく、自律神経体力の増加も目的として施術していきます。
身体は急な変化を好みません。自律神経を整えるに当たっては、鍼灸治療と並行して日常生活の改善等、多角的、長期的な改善が必要になります。
少しでも快適な日常が送れるようサポートしていきますので、一緒に頑張りましょう。